Nおじさんの国際ロマンス〜出会い編
こんにちは、日凪子です。
40歳で1億円貯めて早期退職、都内に購入したマンションで悠々投資生活を送るNおじさんには、一緒に暮らす大事な人がおりました。
Nおじさんと養子縁組をしているそのかたに、私が初めてお会いしたのは大学を卒業した年です。
そのころNおじさんはまだ金融の仕事をしていて、全国のあちこちを転勤で移動していました。
私は昔から旅行が好きではなく、大学時代唯一の泊まりがけの旅行が横浜1泊2日という有様でした。父が振り込んでくれた卒業旅行の費用も迷わず貯金してしまいましたが、就職を控えた3月、なぜか無性に日本海を見てみたくなったのです。
海といえば太平洋しか知らず、日本海は海の色が違うのだとどこかで聞いて、その淋しげにくすんだ色を見たいと強く感じました。
そんな私に、父がニコニコと提案しました。
「日本海ならNおじさんが新潟にいるじゃないか。Nおじさんの家に遊びに行こう」
父は本当にNおじさんが好きですね。
普段交流のない親戚に遊びにこられたら迷惑だと思うのですが、父はさっさとNおじさんに連絡をとり、泊まりがけでNおじさんの家にゆくことになったのでした。
Nおじさん……断ってもよかったのですよ。
あまり嫌ではなかったのでしたら、よいのですけれど。
そんなわけで3月の半ば。
私と父と母の3人で、父の運転する車で新潟へ向かいました。
現地でNおじさんと合流し、市場でカニを大量に買い込んでNおじさんの住まいにうかがいます。
転勤中のNおじさんは会社が借りてくれた平屋の戸建てに、1人で住んでいました。
テラスがガラス張りのサンルームになっていて、日当たりのよい住みやすそうなおうちです。部屋の中も、ものが少なく綺麗に整頓されています。
母と鍋の用意をしていると、Nおじさんが言いました。
「先生も呼んでくるよ。瀬戸内勤務のときに親しくなった人で、ぼくが新潟に転勤になったとき一緒にこっちへ引っ越してきたんだ。日本語も話せるから大丈夫だよ」
小さな声でぽそぽそ淡々と語って、Nおじさんは家を出てゆきました。
「え、日本語も話せるってことは、日本人じゃないの?」
「転勤先で知り合って次の転勤先に一緒に引っ越してくるなんて、よほど仲良しなのね」
「先生って、なんの先生だ?」
私たちがざわめき合っていると、Nおじさんが先生を連れて戻ってきました。
私の父より年上に見えるホワイトヘアが素敵な、スマートで背の高い、柔和な表情の初老の白人男性でした。
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こんなトンチキな格好をしていたわけではなく、あくまで印象です。しゅっとした紳士のイメージです。
先生はアメリカのかたで、研究者でした。
本国では私でも知ってる世界的に有名な××でお仕事をされて、日本へ来てからも、これまた日本有数の××で週に1度講義をし、残りの時間は趣味と研究にあてているとのことです。
その研究の話や株の話で父と先生とおじさんの3人で盛り上がり(※というか父がほぼ1人で盛り上がり)、私と母は先生とNおじさんにずっと注目していました。
普段は無表情で淡々としたNおじさんが、ほんのりやわらかな表情を浮かべていて楽しそうなのが新鮮で、目が離せなかったのです。
食事が終わると、Nおじさんは先生と一緒に家を出てゆきました。
布団が足りないので、今夜は先生の家に泊まるそうです。
その夜、Nおじさんがサンルームに干しておいてくれてぽかぽかになった布団で、私と母はずっとNおじさんと先生についてあれこれ話していました。
「恋人なのかな」
「そうねぇ、でなきゃ転勤先までついてきたりしないわよね」
先生は物腰も表情も優しく知的で、スマートで、とても素敵な人でした。
ただ、あまりにも経歴が華々しすぎて、私はその部分だけがとても心配だったのです。
漫画みたいにできすぎていて、嘘っぽい。
詐欺なんじゃ。
Nおじさん、独身でお金を溜め込んでるから騙されてるんじゃ。
今でいうロマンス詐欺では? そんなふうに思っていたのです。