おうちさんとわたし。

無職おひとりさま50代女性の家づくりと日常

夏の挫折と、とある企業の悪行と。

こんにちは、日凪子です。

夏になるたび思い出す、苦い記憶があります。
あれは大学1年生の最初の夏休みでした。
そのころ私は近所のパン屋さんでアルバイトをしていましたが、夏休みは大きく稼ぎたいと思い、
「実家に帰省するので、1ヶ月半くらいお休みさせてください」
とお願いしたのでした。

最初の1ヶ月をみっちりバイトにあてて、残りの半月を故郷でのんびり過ごす計画です。
情報誌を見てさっそく申し込んだのは、怪しいバイトでした。

現在はKDDIに統合された第二XXという電気通信事業者で、NTTの民営化によって生まれた新しい会社で、募集していたのは営業職。それも飛び込み営業です。
予約もなしにいきなり会社を訪れ、

「すみませーん! 電話の会社です(※社名は名乗らずぼかします)。電話の点検にまいりました!」

と挨拶し、中に入れてもらうことができたら電話機をひっくり返して、他社製品(ほとんどNTTです)であることを確認します。そうして、

「古い機種なので、設定を変えて新しくしてもいいでしょうか? お値段は変わりません。この処理自体も無料です」

相手の了承を得たら、後ろのスイッチをちょこっといじれば、契約完了です。
1分もかかりません。
それまでNTTの回線だったものが、たちまち第二XXの回線に早変わりです。

時給は1000円で、ひとつ契約をとるごとにインセンティブがつきます。値段を忘れてしまったのですが、かなり高額だったかと。回線ごとにカウントされるので、電話が何百台もあるような大きな会社の契約がとれればものすごい額になります。

「先日、みなさんと同じ学生バイトさんがXX(超有名企業)で契約をとってきました。ファイトがあれば誰でもできる仕事ですので、頑張ってください」

バイトの初日、そんな言葉とともに私の他にも数十名の学生が送り出されたのでした。
研修も一切なしです。

とんでもないところに来てしまったと、私は青くなっていました。
どう考えても詐欺です、不正です、犯罪です。

「学生さんがいっぱいです。誰でもできる簡単なお仕事です。能力次第で高額収入可能です」

そんな甘い言葉に釣られて、夏のセールでうきうきしながらスーツを3着も買って好奇心満々で臨んだのが、仕事内容の説明だけでもう、帰りたい気持ちでいっぱいです。

会社ぐるみで、こんな不正な行為をしているなんて。
警察につかまったりしない?
それともこれくらい社会に出たら普通のことなの?

そもそも飛び込み営業なんて、無理ですっ!

初日だけ先輩(学生アルバイトの女の子)が一緒に回ってくれたのですが、けろっとした顔で会社に入っていくのが信じられませんでした。
私のほうはもう、心臓が口から飛び出しそうで頭もぐらぐらして、視線をどこに置いたらよいのかわかりません。
若い女の子2人なので、優しくしてくれる社員さんも多かったですが、きつい言葉で追い払われたり、ぞんざいに扱われることも同じくらい多くて、そのたび胸にグサグサと刃物を突き立てられているようでした。
なのに先輩は、やっぱりけろっとしているのです。

もう、ダメ。

私、営業向いてない。

犯罪に加担するのもヤダ〜。

8時間の就業時間が、本当に長かったし、地獄でした。
結局1日で、そのバイトはやめてしまいました。
電話で「向いていないので、やめます」と伝え、1日分のお給料をもらうこともありませんでした。

しかもこのことで、やめグセがついてしまい、そのあと応募したティッシュ配りのバイトも1日でやめてしまうのです。
そのタイミングで父から電話があり、
「バイト代分、お父さんが払うから、日凪子は帰ってきてゆっくりすればいいよ」
と甘やかされ、
「うん……うん、そうする」
と半べそで家に帰ってしまうのです。

大学1年生のその夏、私がバイトをすることはもうありませんでした。

なんて根性なしでしょう!

このときは本当に自分が情けなくて情けなくて、挫折感でいっぱいでした。

なんでこんなに弱っちいんだろ。
私、もう、どこでもバイトできないんじゃ。
こんな自分は嫌だ!

思い出すたびズキズキして頭の中が真っ暗になって、悔しさに涙がにじむような自己嫌悪は、冬にとあるバイトをめちゃくちゃ頑張ってやり遂げるまで続くのでした。

そのお話は、また冬にでも。