おうちさんとわたし。

無職おひとりさま50代女性の家づくりと日常

画面に向かって「死なないでっ!」と叫んだこと。

こんにちは、日凪子です。

X(twitter)のトレンドワードに「推しの死」という言葉が上がっていました。
某アニメの某人気キャラがお亡くなりになり、ファンの方々が嘆いたり怒ったり絶望したり放心したりしているようです。

私もそんな体験をしたことがあっただろうかと考えて、すぐに浮かんだのがこちらです。

振り返れば奴がいる

CHAGE&ASKAの主題歌「YAH YAH YAH」で覚えているかたも多いのではないでしょうか?
病院を舞台に繰り広げられる、対照的な二人の外科医の物語です。
どちらも抜群に腕はたつのですが、石黒賢さん演じる石川がどんなときも正義を貫こうとする熱血漢なら、織田裕二さん演じる司馬は平然と不正を行う傲岸不遜な悪党です。

ところが、この悪党がめちゃくちゃカッコいいのですよ!
織田裕二さんといえば「踊る大捜査線」の青島刑事のような真っ直ぐで愛嬌のある役のイメージですが、実は悪役も素晴らしく魅力的なのですよ! 情けない役も、真面目な役も、冷徹な役も熱い役もこなせる幅の広い役者さんだと思います。それでいて織田裕二であることをきっちり主張してくる、なにを演じても根本が織田裕二であることはブレない、主役が似合う華のある役者さんです。

そんな織田さんの悪の魅力全開の司馬先生に、毎週夢中でした。
司馬先生がなにか言うたび心の中でキャーキャー叫び、熱さと冷徹さが入り混じった目力抜群な表情に胸を高鳴らせていたのです。

脚本は、なんと三谷幸喜さんです。
三谷さんも私の大好きな脚本家さんです。
けど、こちらのドラマは、三谷さんっぽさは控えめです。
面白いのは間違いなく、役者さんもみなさんキャラが立って生き生き演じられているのですが、後半になるにつれて展開が二転、三転と転がりすぎて、どこへ向かっているのかわからなくなってゆきます。

後年、ドラマの裏側を書いた記事を読むと、当時は三谷さんもまだ新人で、書き上げたシナリオが現場でころころ変わることがあったそうです。
その経験をもとに名作「ラジオの時間」は生まれたそうなので、やっぱり三谷さんは素晴らしい作家さんだと思います。
振り返れば奴がいる」もあれだけ迷走しながら、しっかり面白かったのは、さすがです。

最終回、私をどん底に突き落としたあのシーンも、最初から決まっていた流れではなく、直前で主役の織田さんにああしたいと言われたそうです。
物語の根幹をひっくり返すようなシーンを、あのタイミングで入れてほしいなんて言われたら、それは大変だったでしょう。
視聴者の私も、まったく予想していませんでした。
当然です。
脚本の三谷さんでさえ、予想外の無茶振りだったのですから。

以下、ネタバレです。
これから見てみようというかたはご注意ください。

まさか、石黒賢さんの石川先生と織田裕二さんの司馬先生が、両方お亡くなりになるとは思いませんよね。

石黒賢さんだけでもエーーッ! でしたが、織田裕二さんが西村雅彦さん演じる平賀先生に刺されて、ばったり倒れてしまったのには仰天でした。

え? 嘘? なんで?

刺されただけだよね?

まさかこのまま亡くなったりしないよね?

嘘、嘘、嘘でしょう?

ドラマの終了と同時に愕然からの茫然でした。
しばらくは魂が抜けたように、最終回のことばかり考え続けていました。
どう考えても、あそこで司馬先生が亡くなることに納得がいかなくて、もっと生きてほしいと繰り返し願ってしまいます。
ドラマの中の人物なのに、実在の人物を亡くしたような喪失感とやるせなさがあって、生きていてほしいと考えずにいられなかったのです。

ドラマの最終回が1993年の3月で、同じ年の暮れ、12月29日にスペシャルドラマが放映されました。
これを知ったとき、やっぱり司馬先生は生きていたんだと、望みが繋がりました。
当日、テレビの前に座り込んでドキドキしながら視聴したのですが。
冒頭、司馬先生が倒れている最終回のラストシーンからはじまり、新たに書き下ろした過去の事件が展開し、司馬先生の魅力をまたこれでもかと見せてくれたあとーー冒頭に戻ります。

司馬先生は倒れたままです。
まだ息は絶えていません。
なにかをつかもうとして、手を動かしています。

どうか生きて、
お願いだから生きて、
生きていて、

気持ちが爆発して、ブラウン管の画面に向かってボロ泣きしながら、

「死なないでっ! 生きて!」

と叫んでいました。

「やだっ、ダメ、生きてっ! 生きてて! やだ、やだぁっ!」

わずかに震えていた手がぱたりと落ち、司馬先生は完全に動かなくなってしまいました。
本編の終了時にはまだ、生きているかもしれないという望みがあったのが、完膚なきまでに断ち切られて、そのままカーペットに突っ伏しておいおい泣きました。
一人暮らしでよかったです。

後にも先もに、あんなに物語の中の登場人物の死に絶望したのは初めてでした。

推しキャラを亡くされたかかたちも、あんな胸が裂けそうな痛みと哀しみを味わったのでしょうか。
その哀しみが薄れていって、そこまで没頭できる作品に出会えてよかった……と思える日が来るよう願っています。

そして織田裕二さんには、また司馬先生のような徹底した悪役を演じてみてほしいです。